冷え込む朝でスタートした三月。
百姓にとってはいよいよ三月、という気持ちになる時期です。
卒業式などもあり、別れと新しい出会い・新しい世界への旅立ちの時でもありますね。
一年で生き物たちが一斉に動き出して、樹は芽吹き、桜の花咲くこの季節に卒業や入学、入社などの節目があるのは日本ならでは。
本当に四季の移り変わりと共に生きる日本人らしい感性だなと思います。
この節目の時期に合わせ、これまでの衣食住の「食」に加えて、「衣」についても、小さいながら、この春より彦星ファームとして一つの取り組みを始めたいと考えております。
名付けて織姫事業部(笑)。
地域に昔から住んでこられた年配の方々からのお話、市史や様々な歴史書、神社関係の方のお話などで、私たちの現在の住まいの氏神様が機織りの神様で、倭文織(しずりおり)という織物が織られていた地域でもあり、また今でこそ失われていますが、戦後までは家庭の中で女性たちが糸を紡ぎ、家族を想って機を織るという伝統が根付いていた場所であったことが分かったからです。
実は一年以上も心の中で温めていた「こんなことができたらいいな。」の一つ、“女性たちが想いをこめて布を織りだすという文化を継承していきたい、何かそれに繋がるような取り組みをしたい”という願いが形になり、この度、本当に素敵な織姫である女性が講師をお引き受け下り、道具類が揃う見込みが整いまして、満を持して、三月より「しずり棚機会(たなばたかい)」という糸紡ぎ~機織りまでを学ぶ教室を開催いたします。
棚機(たなばた)というのは、氏神さまである倭文神社に祀られている二柱の神様のうちの一柱、天棚機姫命(あめのたなばたひめのみこと)という女の神さまにあやかって名付けました。もう一柱は天羽槌雄命(あめのはづちおのみこと)という男の神様です。倭文(しずり)織の産地だったことから、地域に受け継がれていたであろう素晴らしい織物の技術を身に着けることができる女性たちの輪が広がっていくように願いをこめて「しずり棚機会」としました。
平成28年3月10日(木)からスタートし、4月以降の日程は随時、このファームのブログと彦星ファームFacebookにてお知らせいたします。
倭文織は麻と絹の混交織物であったことから、また地域のおばあちゃんが、麻布を織り、草木染めして織った布で袢纏(はんてん)を作ったというお話を伺ったりしたこともあって、まずは麻の繊維から糸を績む、麻績みの技術から学びます。
麻績みの技術が身に付いた段階で、麻打ちなどの麻績みをする前の下ごしらえの工程についても、麻績みの後の糸によりをかけるという段階もしっかり学んでいきます。
自分で麻績みした糸が十分な量仕上がったら、ご自分のショールを織る機織りまで行います。
毎月教室は開催し、随時初参加していただくことが可能です。
ご不明な点はお気軽に彦星ファームhikoboshi@hikoboshifarm.comまでお問い合わせ下さい。
皆様のご参加を心よりお待ちしております。
土日開催のご要望もあるようですので、検討して参りますが、3月は10日、24日の二回で決定しております。
・JR中央線「韮崎駅」徒歩1分
・無料駐車場有
・新宿発高速バス 「諏訪・岡谷線」韮崎IC下車 の方はご相談下さい。
送迎が可能です。
・無料駐車場有
・新宿発高速バス 「諏訪・岡谷線」韮崎IC下車 の方はご相談下さい。
送迎が可能です。
【日時】3月10日(木)、3月24日(木) 13時~16時
(16時~17時も、希望者は引き続き自習できるように場所を確保しています。)
※4月以降は随時このブログか彦星ファームFacebookでお知らせします。
【講師】金子貴子さん
福島県昭和村にて織物を習得。
全国の麻績み教室やイベントなどで講師を務める。
山梨県北杜市にて「麻の衣 忠兵衛」を営まれ、麻布の魅力を伝えながら
糸紡ぎ~機織りという伝統の手仕事を女性たちに伝承すべくご活躍されています。
【持ち物】黒い布(糸が見やすいように)
【費用】¥3,000
(初回は麻打ちを済ませた精麻を使用するため別途材料費¥500がかかります。)
※先々で必要になる道具については、参加者の方に当日ご説明いたします。
※彦星ファームのお米で結んだお結びとお茶付です♪
※とにかく楽しく学びましょう!!
これが精麻と言われる麻の繊維。
これから麻績みによって糸を績みだします。
(ちなみに、この精麻は伊勢神宮で使われているものだそうで、
御関係の方より今回の教室の成功を願って、
ご厚意でファームに御贈り頂いた貴重な精麻です。
感謝・・・・・・・)
これまで穀物を出荷してきた百姓である彦星ファームが、なぜこのような取り組みを?と思われたかもしれません。
実は、約10年前になりますが、私たちを百姓へと導いてくれたのは、大分県で循環農法を実践されている赤峰勝人さんの存在でした。
百姓をしよう!と決めたのは、その赤峰さんの講演会でお話を聞いたその日のうちでした。
思い立ったら即決、即実行の夫と、ぼぅっとその後をついて行ってしまう妻・・・。
気が付けば、夢中で田んぼへ通い毎日が過ぎ、田畑の面積はどんどん増え、世間的には専業農家というカテゴリーに入っておりました。
そしてこの数年の間、戦後70年が経ち、
①主食であったお米や雑穀などの“穀物”
②海の塩をしっかりきかせた美味しいお漬物(化学調味料や合成の味付けでないもの)
③お味噌汁(自然海塩としっかり発酵させたホンモノの味噌)
という「日本食三種の神器」(私が勝手に呼んでいるだけですが。)で健康に暮らしてきた何千年にわたって磨かれてきた和食は、すっかり壊滅状態に陥っていることをひしひしと感じてきました。
せめて主食のお米と雑穀を、農薬やら化学肥料やらのオクスリ漬けで、すっかり弱り切ってしまった穀物ではなく、ホンモノの元氣いっぱいのお米や穀物を育てて一人でも多くの方に食していただき、失われつつある日本の伝統食を継承していこうとされている方々のお役に立てればという思いでこれまでやってまいりました。
手間暇かけるもの、一度に大量生産できないものは、効率が悪いものとされて、
生産性が低いという理由で、淘汰されてきましたが、その結果、
衣食住すべてに関わる日本古来の伝統も失われつつあります。
しかし、実際これまでに田畑に関わらせていただいて、
大量生産で短時間で手間暇かけずに出来るものが本当は長い目で見ると、
全くの非効率であることも体感して来ました。
作業の中で必要な効率化は勿論ありますが、
手間暇かけて人手をかけて仕上げたものは、食べ物であれば心身を奥底から満たす力がこもっています。
しかし作業効率優先の大量生産のものは見た目は同じ野菜やお米でも、心身を満たし活力を与えてくれるでしょうか。
効率優先で使われる食品添加物や化学合成物質が、結局は健康を害し、病の原因となることは近年周知の事実となっています。
やりたいことに挑戦したり、思う存分なすべきことを成すことに人生を活かさず、元氣を失った状態で過ごすのは果たして”効率が良いこと”なのか、私たちは今、真剣に考える時期に来ているように思います。
同じく、布や着るものの世界でも同じような手間暇かけたものの大切さは変わりません。
何とかして各家庭で女性たちが繋いできていた布づくりの手しごとも、大切にしていきたいと思うようになりました。
ひと昔の日本では、自然の素材から女性たちが家族一人一人のために、想いをこめて布を織り、その布で手縫いした着物を家族が着用してきました。
今のように、大量生産で、静電気がバチバチ発生するような化繊の布ではなく、服用という言葉にふさわしい、着ることで体を癒し護る布をすべての人が身に着けていたのです。
お嫁入前の女性は麻績みと機織りができなければ嫁にいけなかった(それくらい、お料理と同じように女性にとって当たり前の技術であった)などという話を聞くと、効率優先の価値観では、当時の着るものに関する大変な手間と、女性たちにそのような労働がつきものだったとネガティブにとらえる方も多いかもしれませんが、そうやって大切に作られた布を身にまとい、暮らすことはとても豊かなことだともとらえられます。
想いと祈りのこもったものには、力が宿ります。
女性たちの手仕事が、家族の健康と、無事安全な毎日を生み出す一助となっていたという一面は忘れてはならないと思います。
それはもちろん目には見えない力。
でも確かに思いや念というのはあるのです。
当時の人達が意識していたかどうかはともかく、今となって考えれば、全員が手紡ぎ・手織りの天然繊維100%の布を身にまとっていて、しかも木綿であればオーガニックコットン100%!なんていう贅沢なことでしょうか。
それも、すべて天然の草木染です!!
手間暇かけた、一見効率が悪いとされてしまうやり方で、しかし長い目で見ると体をしっかり養ってくれて、トータルで見ればとても“効率の良い”お米と、布にも同じことが言えると思います。
そんな訳で、彦星ファームでは、これまでの食に加えて、もう一つ熱い思いのあった衣についても取り組むこととなりました。
これまで通り、心をこめて、楽しくホンモノのお米作りを続けて参ります。
そして布にまつわる日本女性の手仕事の輪が広がっていくことを心から祈念しています。
皆さまのご参加を心よりお待ちしております。